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連載【スペイン4部リーグの現場から⑦】

テクノロジーの発達によってサッカーは大きく変わった。

ここ10年のすごい速さの変化もテクノロジーの発達が大きく貢献していると言っても過言でない。ペップ・グアルディオラがバルサの哲学をあのレベルまで実現することができたのも、テクノロジーなしには難しかったのではないかとさえ思う。

例えばVHSやDVDしかなかった時代、見たいプレーをワンクリックで再生したり、同じような場面を並べ、連続で見て比較したりすることは困難だった。そもそも映像を見るためには、物理的にテープやディスクを渡したり送ったりし、なおかつ(今よりもっと重くて大きい)再生機器がある場所でなければ見ることができなかった。必要があれば、時間をかけてダビングをしていた。

インターネットやノートパソコンが一般化した後の時代はどうだろうか。

プレーを何度も繰り返し見られることで、より細かな問題点に気づくことが容易になった。見たい場面がある時、早送りや巻き戻しを繰り返して何分も時間をかけて探す必要はない。試合動画からシーンを切り取れば、複数のプレーを比較したり検証することが可能だ。スマホや動画サービスの発達で、世界中の試合やプレーがいつでもどこでも見られるようになった。自分が持っていない試合動画も、早ければ数分で手に入る。

無数の要素が一瞬のうちに変わっていくサッカーという競技では、状況を把握すること自体が難しい。人間が一度に処理できる情報量は限られていて、なおかつその記憶も数分ともたないものがほとんどであり、トップレベルの監督でさえ、試合全体を把握できていないことが証明されている。このような特徴を持つ競技において、これを飛躍的に補えるようになったのは大きな革命だと言っていい。

近年のサッカー界全体の競技レベルの向上は、情報技術の発展に支えられていたのである。

そしてサッカーと情報技術との関係は、それだけに止まらない。

そもそもサッカーの分析におけるテクノロジーには2種類ある。まずひとつは今説明したような、人間が分析するのを楽にするテクノロジー。もうひとつは、分析そのものをする為のデータを出すテクノロジーである。

言い換えれば、定性分析のためのテクノロジーと、定量分析のためのテクノロジーだ。

サッカーでの定量データ、つまり数字化された情報といえば、テレビでよく見るような試合のスタッツを思い浮かべる方も多いだろう。日本人の若い指導者にこう聞かれたことがある。

「相手チームの分析をするために、どのようなデータを使いますか?」

彼が聞きたかったことは簡単に言えば、定量データのどの数字に注目するのか?ということだったが、残念ながら数字を元にして次の試合の対策を立てることは今はしていない。

スペイン1部クラブCelta de Vigoの分析官に話を聞いた時も、同じ答えであった。彼は現在のスペインA代表分析官だ。

数字を重視しない理由は主に2つある。ひとつは、注目すべき数字があったとしても結局は映像を見なければ効果的な対策は立てられないということ、そしてもうひとつは、過剰な情報量や局所的な情報は、逆に一瞬の判断を鈍らせる、ということである。

極力単純化して説明してみよう。例えばある試合においてあるサイドハーフの選手のセンタリングの数が少なかったという数字が出た。では彼は、サイドで相手守備選手をかわしてセンタリングする練習をすればいいのだろうか?

実際には、なぜセンタリングが少なかったのか、つまり改善点がどこにあるのかは、試合を見てみなければわからない。

チームが早々に先制したが故にほとんど引いて守備を固めていたのかもしれないし、彼のセンタリングが脅威だと考えた相手チームがサイド深くでは常に2人の守備をつけるようにしたのかもしれない。相手の逆サイド側が弱点であったためにセンタリングを受ける側の役割が多かったのかもしれないし、対峙する相手守備選手が横の動きに弱かったり中央にスペースができていたので中に切り込む方がチャンスを作りやすかったのかもしれない。

テレビやweb上でよく見かけ、なるほどと納得してしまいそうなあのデータは、次の試合に勝つためには実はあまり役に立たないのである。パス成功率やボール支配率、シュート本数など、結果としての数字自体がその試合のパフォーマンスの良し悪しや改善点を示すものではないと言える。

特にスペインでは、試合における問題点の戦術的解決を目指すため、状況や戦術的文脈を考慮に入れないデータをそのまま採用することは難しいのだ。

そしていくらデータを集めても、トレーニングをして選手に落とし込むところまで持っていかなければ結局は意味がない。情報過多の状態は、選手のインテンシティを落としたり、迷いを生じさせるうえに、もっと重要な情報を曇らせる危険性もある。最も重要なのは、チームとしての戦い方のコンセプトであり、その文脈の流れにうまく沿ったものでなければ不均衡を生む。

過密な試合日程の中で、毎試合に対してうまくそれを落とし込むスタッフの力量と、うまく取り入れられる選手のインテリジェンスが必要で、今はまだその最適なバランスを探している状態だと言えるだろう。

とはいえ、サッカー界とテクノロジー界は徐々にお互いを知り始め、どのようにすれば有効なデータが取れるのか、どのように取られたデータを扱うのか、という相互理解は確実に進んでいるとも言えるし、今後もその傾向は間違いなく進む。

現在はデータ会社が試合のあらゆるプレーを定量化・データ化して参照しやすくしているため、トップカテゴリーではゴール期待値と呼ばれる指標や選手の移動の加減速までわかるようになっている。また、それぞれのチームにおいてもGPS装置の使用が普及しており、普段のトレーニングからも選手のデータがとれる。

今のところほとんどのクラブにおいてこのような定量データが役に立っていると言えるのは、①選手のフィジカル管理と評価、②強化部の意思決定におけるフィルタリングと客観的根拠、③目標とするプレーの客観的評価指標の設定、④人間が認識できる範囲を超えた大極的な統計事実、が主なものだろうか。

強調するがこれは、”今のところほとんどのクラブにおいて”である。

既に指数関数曲線に乗っていると思われるテクノロジーの発達は、今まさに起こりつつある将来としてさらに大きなブレイクスルーを生むはずだ。もはやテクノロジーとの関係を絶てないサッカー界は、当然その影響を受ける。

この辺りについては、次回のコラムでもう少し詳しく掘り下げたいと思う。

[筆者プロフィール]

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