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連載【スペイン4部リーグの現場から⑧】

”ディテールが勝敗を分ける”

影響する要素が多く、得点が入り難いサッカーという競技の結果について、よく話される言葉である。

ある程度戦術理論が成熟してきた段階で重要になってくるのは、プレーのディテールと、それを実行し、相手との差を生む身体能力だ。

最近のサッカーではよく言語化という言葉を耳にするし、戦術理論の成熟はこの言語化と共にあった。しかし一方で、重要な要素である一瞬のタイミングの違いや移動するスピード、要素を多数含む状況などについて言語化することは、人間にとっては非常に難しい。

今後、このような言語化し難い部分の分析と可視化という情報技術、そしてそれを使って出せるデータをどう扱うかというインテリジェンスに優れたチームが、次の時代のサッカーへと進むことができる。

そしてこの情報技術の部分は必ず進化し、近いうちに小さくないブレイクスルーを起こすだろう。そう考える理由は大きく2つある。

ひとつはいわゆる人工知能の発達で、もうひとつは動画処理技術の向上だ。

2012年に一躍有名になったディープラーニングという機械学習は、人工知能界に革命を起したと言っていい。この技術は、画像認識に強いという特徴からサッカー分析と相性がいいし、言語化し難い特徴を抽出することに優れている。そしてこれは既にサッカーの為のいろんなツールに導入されている。そしてこのディープラーニングを使った技術は、これからもまだまだ出てくるに違いない。

6,7年前にディープラーニングを知った時、将来必ずサッカーで応用されるだろうと考え、この人工知能の特徴とサッカーの特性を考慮して、実際に応用できそうなツールをいくつか想定した。そしてその技術開発がしたいと日本人のサッカー関係者に話したり、MBAの学生に相談したりしたのだが、当時はほとんど誰も賛同してくれなかった。

それから3,4年後、想定していたようなツールが実際に本当に世に出始めたので、あの時に開発を始めることができていれば、と自身の力の無さを痛感したし、今でもその思いがある。

このエピソードからもわかるように、経済産業の世界のトップに比べれば、サッカー界での物事が進むスピードはそんなに早くない。つまりサッカー界での応用がまだ初期段階であることに加えて、その他の分野でもディープラーニングを使った技術はどんどん進化しているので、今後も伸びる可能性しかないのである。

そして現在、コンピューティング性能の向上とともに、動画のような大きなデータを扱ったり、加工編集する技術がさらに向上している。より解像度の高いデータを扱えるようになったことでディテールが分析できるし、動画の加工技術の飛躍的な向上により、言語化し難い部分も視覚的に伝えることができる。

これまで各々の感覚に依存していた部分の分析、可視化が進めば、より高度なプレーと駆け引きが可能になる。だが問題は、何を分析し、可視化し、選手に伝え、実現すれば、次の試合に勝つ可能性をあげられるのか?である。情報技術の発展とともに、サッカーという競技の理解が進むことが必要とされる。

そしてサッカーがより理解され、技術によって分析され、可視化によって伝えられれば、その次の課題に行き着く。いかにその高度化されたサッカーを選手がピッチ上で実行できるかだ。それを理解してピッチ上で処理できる頭の良さ、より精度の高いプレーができ、高度な駆け引きの中で最適な、そして相手を上回ることのできるパフォーマンスをする身体能力が必要とされる。

現在のフットボールで最も向上したのは、選手のフィジカルだとも言われる。これも、医学の発展、計測や検査のための機器の性能向上、分析やデータ管理するコンピューティング性能の向上等と切り離して説明することはできない。

今後も、より人体が解明され、精密な身体動作が計測され、高度に情報処理されていくことは間違い無いだろう。サッカー界における進化も、将来は脳や遺伝子にも及んでいくことは自明である。

ところで最近では、ドイツ人若手監督の台頭が目立つと言われている。

当然彼らが国外で活躍する上で、スペイン人監督よりも文化や言語といった面で適応しやすい部分は大きいだろう。英語が流暢なスペイン人監督は少なく、家族や友人との落ち着いた生活を一番に優先し、太陽を愛するスペイン人が、既にいるスペインリーグのコンペティティブな環境を出る理由は新興国マネー以外にあまりない。そして志向するサッカーがドイツやイングランド、フランスの傾向と大きく違うことも、理由にするには十分だ。

だがやはり、スペインよりもいち早く情報技術や新しいテクノロジーを導入して試行錯誤しているクラブが多いのはやはりドイツであり、そのような環境で頭角を現した若手監督たちが活躍していることは見逃すことはできない。

テクノロジーに対するリテラシーが元々高いドイツ人がサッカーのリテラシーを上げれば、そこに新しい何かが生まれるのは必然的な流れである。

彼らが具体的にどのようにテクノロジーを使っているのか、当然全てが外に出ることはない。試合に勝つために有効な新指標を見出しているかもしれないし、未だに模索しているかもしれない。しかし総合的に判断して、未だ革命的なブレイクスルーは起きてはいないということは言えるだろう。

これから先、日本サッカーが世界を追い越したいのであれば、明らかに進んでいくこれらの分野に対して今のうちに着手していく必要性がある。そして、日本人の努力と頭の良さを使い、多くの人が協力し合えばそれは可能だと思っている。そのような大きな目標にチャレンジできる環境にいること、サッカーというツールで多くの人とその楽しみを共有できることに感謝したい。

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