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連載【スペイン4部リーグの現場から④】

トップクラスのコーチチームを訪問できるという素晴らしい経験で2017年を終え、迎えた後半戦。

リーグ戦では、それまで30戦無敗で頭ひとつ抜けた実力をみせていたR.C.D.Espanyol B戦勝利など、チームの調子は上がっていた。

私自身もリーグ戦と分析のサイクルに慣れてきたこと、またCelta de Vigo訪問で自信を得たこともあり、昇格プレーオフや翌シーズンへの期待が高まっていた。

しかし第33節終了後、クラブは突然、当時のJoan監督との契約を更新しないことを発表した。

まだリーグ戦は終わっていない。前季の12位に比べても良い成績だ。何より昇格プレーオフ進出の可能性は残っている。なのになぜ?

どうやらスポーツの世界は結果だけではない、というのはここスペインでも例外ではないらしい。

指揮し続ける理由を無くした監督は、4試合を残して辞任する道を選んだ。

クラブの育成ダイレクターが暫定監督を務めることになったのだが、「一応代わりの監督は来るけど、残りの試合は全部Yoshiに任せよう」という冗談がスタッフの間で出るほど、モチベーションは下がっていた。

R.C.D.Espanyolのユースでコーチ経験もあった暫定監督は、チームをトレーニングすることには当然問題がなかった。しかし試合に関しては「君がまとめて教えてくれたらいいよ」と、彼自身では本当に試合映像を見なかった。

なんともスペイン人らしい。しかしこのような状況だったからこそ、それまで以上に自分自身で責任を持って分析のレポートをまとめる、という機会となった。

それまではJoan監督のやり方を把握していたし、意見を交換しながらできていた部分もあったが、サッカー観を把握していない相手に、一つの完結した情報として対戦相手のことを伝える、というのはまた少し違う作業となってくる。

そのような場合は、説明内容を体系的に整理し、項目毎に情報をシンプル化することが重要だ。

当然、ある項目について詳細を求められれば提供できるよう準備はするが、まずは試合の全体像をイメージできる情報量に絞る必要がある。試合の全体像が把握できなければ、チームの方向性を決めるイメージがつかないし、それが決まらなければ個人のタスクも当然決まらない。

大極的な情報をなるべくシンプルな言葉で。しかし伝えたい情報を象徴するキーポイントについては、そのプレーが起きた場面を適度に複数個見せることで説得力が増し、具体的なイメージをつかんでもらうことができる。

「君が監督やった方がいいよ。」

もちろん冗談なのだが、まだ慣れない暫定監督への説明で真面目モードになっていた私は、笑いながらも真面目に返答した。

「僕は指導する人間ではないからトレーニングはできないよ。君はエスパニョールでの経験もあるでしょ?」

「ああ。でも、君の方がフットボールをよく知っている。」

もちろんそれは事実ではないのだが、全く通用していなければ出ないであろうその言葉を引き出せたのは、初めて共に働く相手に対してしっかり伝わるように工夫をしたおかげだろうと思う。

そして付け焼き刃だった暫定監督は、17/18シーズンの最後の4試合を2勝2分の無敗で終え、周囲を驚かせた。

今ではその暫定監督と顔を合わせる度、「やあ、無敗監督」「やあ、ベストコーチ」とふざけた挨拶をし合っているが、また再びこのクラブへ戻ることになるとは、この時は思ってもいなかった。

その後もJoan監督に気にかけてもらっていた私は、次のシーズン、彼とともにU.E.Figueresという4部リーグの古豪クラブへ行くことになった。以前2部リーグで戦っていたこのチームでは、数年前から在籍するUEFA PRO保持者の分析官とともに、チームとしての分析の仕事を学ぶことになる。

[筆者プロフィール]

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