” Juan Carlos Unzué ”
選手時代はキーパーとしてバルサやセビージャで活躍し、ルイス・エンリケ監督の右腕としてバルサの三冠に貢献した人物だ。
この17/18シーズンはスペイン1部Celta de Vigoの監督を務め、バルサ時代のスタッフと共にガリシアの地でリーガを戦っていた。
幸運にも、そんなトップクラスのサッカー指導者と会えるチャンスがやってきたのは、私がC.E.Europaで分析をし始めた年の冬だった。
「知人からウンスエ監督を紹介してもらえることになって、セルタの練習1週間見学と前後の2試合に招待してもらえるんですけど、一緒に行きませんか?」
日程的にはその年の最後の試合と被っていたが、信頼できる人物からのこの提案を断る理由はなく、すぐにチームのスタッフに相談した。
この旅は水色に染まったEstadio de BalaídosでのVillarreal戦観戦から始まり、翌日はトップチームの練習場へ。
地元ガリシアTVからの予期せぬインタビューも含めて緊張していたが、ウンスエ監督は我々を気さくに迎え入れてくれた。
1週間のトレーニングを隠すことなく見せてくれ、食事を共にし、仕事場であるクラブハウスのオフィスにも招き入れてくれた彼らと、その機会をくれた友人に感謝している。
そんな幸運の中でも、やはり私が気になっていたのは分析事情である。
当時セルタのスカウティング分析をしていたのは、監督の息子であるAitor Unzué氏。現在のスペイン代表分析官だ。
彼は分析の基本をスペインサッカー協会の分析コースで学び、父である監督とコミュニケーションを取りながら進めているということだった。
その役割を一人でこなしていた彼は私と同じように、試合の毎に対戦相手の過去の試合から計4,5試合を選んで分析していた。
トップリーグのクラブと言えど、スタッフに専門の分析官を置き、さらに複数人で分析チームを組んで試合に臨むというのは、実は昔からやっていることではないし、どのクラブでもやっていることでもないのだ。
分析を試みたことのある方ならわかると思うが、毎週、または週に2回、4,5試合を見ると言うのはかなり時間がかかる。
「毎日8時間は画面に向かっているよ。休日という休日はないね。」
そうしてまず監督とスタッフに見せる動画を作り、その試合の方向性が決まれば、最終的に選手に伝える映像を監督がチョイスする。
彼はそのために高額なスポーツ分析用のソフトを使っていた。そして彼は我々の目の前で軽く普段やっていることを見せてくれた。
私は分析専門のソフトは使っていたなかったが、実は動画編集ソフトを駆使して同じようなシステムを作っていた。それはつまり、分析する考え方やコンセプトが近かったからできたことだった。
もちろん分析を細部まで逐一議論したわけではないし、ひとつひとつのプレーアクションを見る目が彼と同じだとは言わない。だがベクトルの向きが合っていることがわかれば、あとはそれを伸ばすだけだ。
ひとつ私がその時やっていなかったことを挙げるとすれば、彼は試合を15分毎に区切って分析していたことだ。
このことは単に時間帯で分けるということ以上に、さらに分析の考えを深める上で、私に新たなコンセプトを与えてくれた。これについては後々詳述したい。
ちなみに私は動画編集ソフトを使っていると言ったが、当然分析が細かくなるにしたがって作業がより増えていく。その辺りを解決してくれるのが専門のソフトなので、まめな作業が苦手な方や時間を節約したい方には、専門ソフトの使用をおすすめする。
また、この訪問では、現在Aitorと同じようにルイス・エンリケ監督をスペイン代表スタッフとして支えるフィジカルトレーナーのRafel Pol氏と心理士のJoaquín Valdés氏からも学ぶことができた。Joaquínはバルサが主催するBarça Innovation Hubで私が受講したハイパフォーマンス心理学の講師であり、柔道家だ。彼らからの学びについても、別の回で述べたい。
こうして、その週の終わりにA Coruñaでの素晴らしい雰囲気の中のガリシアダービーに招待していただき、この幸運な旅を終えた。
こういう時に素晴らしいホスピタリティで客人を迎えるのが本当に良いクラブだ。
ウンスエ監督はこう言った。
「時々こうして客が来るが、初対面でも忙しくてもなるべく対応している。その出会いがいつどんな結果をもたらすかわからないし、常に誰かから学ぶことがある。」
彼はその後、2部Girona F.C.で指揮をとったが、去年6月、自身がALS(筋萎縮性側索硬化症)を罹患していることを公表した。
アイスバケツ・チャレンジという支援の輪が一時期有名になったこの難病は、未だ有効な治療法が発見されておらず、2018年に物理学者Stephen Hawking博士がこの病の為に亡くなったことは記憶に新しい。
その会見で、これからはサッカーを離れ、ALS患者というチームに加わると言った彼への応援と感謝のつもりで、微力ながらFundación LuzónというALS(スペイン語ではELA)と戦う財団にドネーションをした。
こういうことをきっかけに実際のアクションに繋げられるのもスポーツの良さだと改めて認識させてくれたウンスエ氏はやはり人格者であったし、サッカー界はそうであって欲しいと思う。