“Connecting The Dots”
かの有名なスティーヴ・ジョブズのスピーチのワンフレーズだ。
彼はなるべくしてなった天才だろうか?
このスピーチから察するに、意味のあるドット(点)を作れる才能はたくさんいるが、その点がつながって線になるかは運に大きく左右される。
しかし、ドットをたくさん作るほど、ひとつひとつのドットを大きくできるほど、それらは繋がりやすくなる。
彼の100億分の1くらいのスケールではあるが、私がここにいる経緯を考えれば、ドットとドットが運よくつながっていったことで、今があると感じている。
その時は給料もなく、クラブに所属していたとは言えないが、私がC.E.Europaに初めて関わったのは16/17シーズンだった。
ある出会いから話が進み、試合のビデオ撮影を担当していたのだが、当時の監督が成績不振によりシーズン途中で辞任。それに伴い、新監督Joanがクラブにやってきた。
彼は、エスパニョールのユースを経て3部リーグの選手として活躍し、監督に転身した後は、2つの4部チームを昇格させ、3部リーグでも4シーズン指揮した実績を持っていた。
「動画の編集はできる?」
こう質問された時の私は、本当にただただ試合に帯同してビデオを撮る役割を担っていた。
Europaに関わるきっかけとなった人物は既にチームを去ってスタッフが一人減っており、私は残って役割を続けていた。
奇しくもこの少し前、iPadの盗難に遭っていた私は、たまたまAdobe社の動画編集ソフトが入ったMacBook Proを購入していたので、「もちろんできるよ。」と答えた。
これが、私がスカウティング分析を始めるきっかけとなる。
”スカウティング”と言うと新選手の獲得作業を想像する人もいると思うが、対戦相手のチームを分析することを、”スカウティング分析”と言う。
もちろんこの時頼まれたのは分析ではなく、最初は、ただただJoanが選手に見せたい相手チームの映像を、タイムコードのメモを元に編集するだけだった。
しかし、自分で映像を編集し、ミーティング内容を注意深く聞いているうちに、
「なるほど。彼は相手チームのこういう情報を欲しがってるんだな」というのがなんとなく読めるようになってきた。
その週のトレーニングを観察し、試合を見るうちに、それらの関連性も見えてきた。
ある週、彼に編集内容を指示される前にミーティング用の映像を作った。
「すごくいいよ、Yoshi。何も問題ない。欲しかったシーンは、全部入ってる。」
次の週からはさらに努力した。
見落としがないように、監督が欲しがると予想されるいくつものプレーアクションを全部リストに書き出し、試合からそのシーンを全て切り取った。
繰り返し見ることでパターンを見つけてシーンを選び、強み、弱みと共に提案した。
もちろん、監督のミーティングを聞くだけで彼らのサッカーを理解したわけではない。
最初は何度か相談しながらも作ったし、なんとか適応できたのは、それがスペインサッカーだったからだと言ってもいいかもしれない。
それまで私は、スペインのサッカーに対する考え方を見抜くために、日本人指導者の出版するスペインサッカーの解説書を読み、街クラブのユースチーム等を手伝い、書店のサッカー本を学習途中のスペイン語で少しずつ読むなど、いろんな方向からヒントを探していた。
その下地があったので、実際に現場に入った時に、断片的だった知識のピースが組み合わさっていった。
スペインサッカー協会が考えるサッカーの解釈は、とても整理され、体系化されている。
なんとなくみんなが感覚でわかっているようなことに関しても、細分化し、言語化し、項目化することで、理解と共有が早くなる。
このことは、選ぶ表現の違いはあれど、スペインのサッカーを学んだ人たちがそろって口にすることだ。
例に漏れずそれを実感した私は、Joanのやり方と照らし合わせ、自分なりにそれを整理することでスカウティング分析の方法を構築することができた。
シーズンオフ、Europaでスタッフとして続けることをJoanから打診された。
正直うまくやれるかはわからない、と素直に伝えたが、彼は「大丈夫だ。」と言った。
新シーズンが始まって少ししたら、クラブのwebサイトのスタッフ紹介には自分の写真が載り、Video/Scouting という肩書きがついていた。
そしてこのシーズンの冬、幸運にもスペイン1部のクラブを訪問したことで、この”自分の分析方法”に対して自信を深められることになる。